――宇宙は、時としてただただ不公平だ。
もしこの宇宙の片隅に私の肩書があるとすれば、「旅を生き甲斐にする者」と書かれているかもしれない。私は旅をするためなら、喜んで何時間もかかる道程を突き進むし、高い船やカプセルを危険に晒したりもする。むしろそれが楽しくもある。全ては旅の先にある何かを自分で目撃し、それについて書き残すことで、誰かがまた確認に行く必要がないようにするためだ。いつも観光地の下調べについては、プライドをかけて入念に行っている。私が見てきたものを読者と共有するだけでなく、その場所が一体どういう背景や意味を持つのかという包括的な情報を提供するためだ。私は旅をするためなら何も惜しまないと言っていいが、全てはある決定的な瞬間のためだと言える。長いワープが明け、その先にある景色が目に飛び込んできた瞬間、生まれて初めて見る景色と対面した瞬間の、あの興奮のためだ。その景色が何であるか、あらかじめ知っていることはそうそうない。たいていは全く未知の領域に突入することになるが、それが一層、その先の景色との対面の瞬間をスリルで満たしてくれる。こう書くと、まるで私の旅路には運が味方しているように聞こえるかもしれない。
もちろん、そんなわけがない。一瞬自分がNew Edenにいること、そしてこの宇宙に根付く原理原則は、自分の味方からは程遠いということを忘れていただけだ。
今日の話はIyen-Ourstaから始まる。ここはガレンテとカルダリの国境近くに位置する、静かなシステムだ。両者の国境沿いといえば、AlgogilleやLuminaireといった、より国境に近いシステムが有名なため、戦線においては攻めるにしろ守るにしろ忘れられがちな場所である。ここへは何度も通りかかったことがあるし、このシステムに存在するRoden ShipyardsがMegathronの艦隊を建造している様子を見るためだけに寄り道することもある。
カプセラとしてまだ日が浅かったときのことだった、偶然にも「チルドレン・オブ・ライト」と呼ばれる報告を目にしたことがある。目撃情報はごくわずかだが、それらははっきりしていた。証言によると、彼らはゲートの起動時に、光の雲がゲートへと収束していくのを見たという。これに科学的な説明を試みるとするならば、光の正体はある種の条件下で発生したプラズマ漏れによる放電である可能性が高いと言えるだろう。ジャンプ中の船と周囲のプラズマが共鳴状態になることで、瞬間的に発生した放電現象ということだ。余談だが、この他にも非科学的な説明を試みる話はあったが、文字通り聞き流した。だが当時は私は果敢だったので、すぐにIyen-Ourstaを「行きたい場所リスト」のトップに書き留めた。当時はガレンテを拠点にしていたから、ホップ・ステップ・ジャンプで到着する程度の距離だった。
現地に到着したとき、正直に言って少しがっかりしたのを覚えている。ゲートはたしかに、ガレンテ建築らしい荘厳な造りではあったが、いわゆる「チルドレン」と呼ばれる光は見当たらなかった。ゲートから数キロ先には、小さなビーコンが鈍く点滅していた。ビーコンは規則正しく「チルドレン・オブ・ライト」と発信していたが、Auraは奇妙なほど静まり返っていた。いつものようなコメントは一切なかった。だが私は、すぐに失望感を振り払った。初めて全くの期待を裏切られたあの出来事に比べれば、こんなものは落胆の内に入らない(*Atioth、君のことを言ってるんだよ)、それに期待をバッサリ裏切られるのは、あれが最初で最後でもなかった。まあ代わりに、先ほどの話にもあったRoden Shipyardsを見物することができたので、完璧な無駄足というわけでもなかった。心の中に「今回の遠征はクソだった」としっかり書き留めて、朗らかに帰ることにした。
あれから数えきれないほど、このシステムを通りかかった。ジャンプするときはいつも、今度こそオーバービューに未知のビーコンが見えてくるのではないかと、つい想像してしまった。そして実際に現れてきたものを見て、また落胆する。そんな調子だから、この逸話も世間に散らばる都市伝説の一つとして忘れることにした。足もないのに独り歩きする、昔話の亡霊に過ぎないと。
少なくとも私は、そう考えていた。
数日前、Jon Tarantというパイロットから突然連絡が入った。そのとき私は、これとは関係のない研究プロジェクトのためにPure Blindを通りかかっているところだった。コーディネーターが一人ないし二人以上のときの常で、もう無限にも思われる書類作業をどうにか切り抜けようと必死のときだった。その聞き馴染みのない名前は、私の興味をそそることを話しはじめたのだ。Jonは最初に、チルドレン・オブ・ライトのことを聞いたことがあるかと尋ねた。またあの失望感が頭に蘇ってきて、思わず自分のことを冷めた目で笑い飛ばした。私は、聞いたことがあると答えた。すると彼は、自分はそれを目撃したことがあると言った。それだけでなく、その時の画像まで残っているという。それを聞いた瞬間、他のプロジェクトのことが頭から全て吹っ飛んだ。彼は興味をそそるだけでなく、私の注目を一身に集めたのだ。
すぐさま、その画像を見せてもらえないかと話した。彼は律儀にそれを見せてくれた。画像は最善の解像度とは言えないものだった。明らかに焦って撮影した代物だ。(訳注:原文ではこれが「on the fly」のときに撮影された画像だというジョークが挟まる。船が「on the fly(飛行中)」と、撮影者が「on the fly(急いで)」をかけている)私も最近、カメラドローンをアップグレードしたばかりだったので、その気持ちはよく分かった。だが眺め自体は。その画像の眺め自体は驚くべきものだった。ゲートは印象的な青い光に包まれていた。光の渦があらゆる方向に取り巻き、複雑な格子模様をつくりだしている。これがあの「Iyenの妖精」の名の由来だった。画像を見ただけだが、何て素晴らしい景色だろうと胸を打たれた。
私は質問攻めにして、聞き出せることは一から十まで全て話してもらった。彼は思い出せることなら何でも喜んで話してくれた。問い詰めた結果、彼の乗っていた船(Taranis)、日時(YC115年3月10日)、近くに人がいたかどうかがわかった(ローカルに数名)。彼はローカルの人たちにも、チルドレンが見えたかどうかを尋ねたらしい。答えは全て、ノーだった。彼の数ジャンプ後ろには、Iyen-Ourstaを通過する予定の友人がいた。Jonはその友人にも、ゲートを通過するときに光が見えなかったかと訊いた。だが友人も、ゲートには何もなかったと答えた。彼はその画像をしまい込んだままずっと忘れていたのだが、このブログを訪れたときにふとその目撃情報を提供することを考えてくれたのだ。
私はすぐさま、自分もIyen-Ourstaのゲートを通過してみようと飛び出した。だがそこには再び、ゲートの外の何もない空間が広がるだけだった。見えるのは何隻かのガレンテNPC船のみ。忌々しくピカピカと規則正しく点滅している。まるでこちらを馬鹿にしているようだ。何の光もない。何の格子もない。チルドレン・オブ・ライトは見えなかった。
今もなお、私はIyen-Ourstaの安全なステーションに停泊しながらこの記事を執筆している。そして間違いなく、この後しばらくここで粘って、Jonが見たという現象を自分も見られないか探すのだろう。こちらにはあらゆるアプローチを試す手段も決意もある。違う船を試したり、違う変数を試すことでチルドレンが発生しないかを検証するのだ。何せチルドレンは実在することがわかった。そしてそれが重要な鍵だった。そこに見たい景色がある、そのことを知るのが最も重要だ。今まで私は、誤った安心感に包まれて半ば寝ぼけて過ごしていた。隠された景色を見つけようと思えば、何でも見られると慢心していた。だが突如として、この宇宙は再びすっかり生まれ変わって見えた。私は他に何を見逃してきたのだろう? 私は他に、不可能だと決め込んでどんな景色を見ないできたのだろう? 人一人の目で見るものには限界があるということを、時として他者のもたらす新たな視点が気付かせてくれることがある。
つまるところ、宇宙は時としてただただ不公平だ。
*Atioth、君のことを言ってるんだよ
旧地名はVak'Atioth。かの最強アマー帝国がジョビに喧嘩を売ってコテンパンに返り討ちにされ、後のミンマター蜂起に繋がったことで有名な地域。
アマーは当時全盛期でジョビに対して負けるとは露にも思っていなかったため、その前後の心情の落差を観光地の期待の落差に重ね合わせた発言と思われる。
翻訳者:渋丸
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